魚釣りにおける釣り針は、魚と人とを繋ぐ唯一の接点であり、釣果に影響を与える最重要の釣具です。
ターゲットとなる魚は多種多様で、それぞれ口の形状が違えば、大きさも違うし、針の掛かりやすさや口切れの起こしやすさも違います。
更に言うとエサを普通に食べるものもいれば、口先で啄むように食べるもの、丸呑みするもの、警戒して食い込みにくいものなど食べ方も様々です。
それゆえ、釣りをする時には対象魚に適切な形状や大きさ(号数)の釣り針を使う必要があり、人気の魚種については、魚種別の専用の釣り針も販売されています。
ここでは、釣り針の構造を含めた基本知識について紹介した後、5種類の基本形状を持つ釣り針を取り上げ、それぞれの特徴と特性、メリットやデメリットについて紹介します。
自分で仕掛けを作るための基本知識として、釣り方や対象魚に合わせた釣り針の選び方を身に付けておきましょう。
釣り針の種類 ~対象魚や釣り方に合わせた選び方~
これから釣りを始める入門者さんや、始めて間もない初心者さんも多いと思うので、まずは釣り針にはどういったものがあるのかを紹介するところから始めます。
その後、釣り針の基本形を示し、各部位の名称(呼び名)と働きにについて解説します。
なお、ルアーフィッシングをするアングラーにとっては、ルアーに応じたフックの種類と選び方の知識が必要となります。
ルアーのフックについては、本記事の最後で紹介していますので、そちらを参考にご覧下さい。
釣り針とは(フックとは)
釣りをしたことがない人でも、釣り針が魚釣りに使う釣り道具の一つであることを知らない人はいないでしょう。
釣り環境に適した日本に住む人のほとんどの人は、日々の生活やメディアを通して、釣りというレジャーがどのようなものか認識しています。
それだけ認知度が高い釣り針とはいっても、実は非常に多種多様で、様々な形のものがあるだけでなく、魚の口に引っ掛ける目的以外の使い方をする製品もあります。
上図は、エサ釣りだけでなくルアーフィッシングで使われる釣り針(フック)も示していますが、その形状は使用用途に応じて様々です。
ただし、紹介する対象を拡げすぎると、収集がつかず一つの記事内で纏めきれないので、ここでは最もポピュラーな堤防釣りのエサ釣りで使う針の種類(写真の一番左上)に焦点を当てて紹介したいと思います。
まずは、釣り針の基本形状と各部の名称(呼び名)について確認してみましょう
釣り針の基本形状と各部の名称
針と言っても裁縫針のように直線ではなく、魚を引っ掛けて引いてくる訳ですから、釣り針はそれに適した形になっています。
釣り針の基本形状を一言で表すと、アルファベットの【 J 】と同じ形と言えるでしょうか。
以下に釣り針の基本形状と、各部位の名称(呼名)を示します。
上図は、海釣りで最も良く使われるチヌ針の元となる伊勢尼形状で、様々な対象魚に対して使える汎用性の高い釣り針の一つです。
図中には各部位の名称を示していますが、もう少し詳しく説明を付け加えておきます。
- チモト
針とハリスを結ぶための突起部分のことを【チモト】と呼びます。
チモトには結んだ釣り糸がすっぽ抜けしないように膨らみを持たせたり(叩き)、切り込みが入っていたり(ギザ耳)、あるいは結びやすい環になっている(管付き)ものがあります。 - 胴(軸)
チモトの先端から針の曲がり始める所までを、【胴】や【軸】と言います。
胴の形状は、一般的には円柱上の丸軸ですが、強度アップや集魚効果を目的に一部プレス加工して平たくした平打ちや胴打ちと呼ばれるものもあります。
軸の太さは針全体の太さに繋がり、太いほど強度が強くなりますが、同時に重さも重くなるため、魚に与える違和感もまた大きくなります。
胴の長さは胴長(軸長)と言い、魚種別に販売されている専用針では、魚の口の形状やエサの食べ方に合わせて適した長さに合わせてあります。
また、上図のように胴の途中に尖りを逆立てた形状のものを、【ケン】と言います。
ケンには1本ケン、2本ケン、あるいは背側と腹側に1本ずつケンがはいったものなど、幾つかの種類が存在しますが、ケンには付けたエサがズレるのを防ぐ働きがあります。 - 腰曲げ(胴曲げ)
Jの字を書く時に、胴を通ってカーブを描き始める、この曲がりの部分を【腰曲げ】や【胴曲げ】と言います。 - 先曲げ
同じくJの字を書く際、針先へ続くカーブの終わり部分を【先曲げ】と言います。先曲げの角度次第で針先が真っ直ぐ上向き(軸と平行)なのか、内向きや外向きなのかが変わりますが、魚のエサの吸い込みやすさに合わせて調整されています。 - 針先
釣り針の先端部分で、針が魚に刺さるように尖らせた部分を【針先】と言います。 - カエシ(モドリ)
針先部分から、針先とは逆の方向に入れた尖りを【カエシ】と言います。
カエシは【モドリ】や【イケ】、【カカリ】、【アゴ】など多くの呼名を持ちます。
カエシはエサが外れるのを防止したり、掛けた魚の針が外れてしまうのを防止する役割があります。
カエシがない針先を持つものは【スレ】と言い、そのような針をスレ針と言います。 - イケ先
カエシ(イケ)から針先までの間を【イケ先】と言い、イケ先には様々な加工が施されます。
針先から胴を見た場合、右側にひねりを加えているものを【ヒネリ】、イケ先を針の軸方向へ軽く曲げてあるものを【先曲げ】、イケ先を軸方向へ大きく曲げてあるものを【ネムリ】と言います。
イケ先の加工もまた、針の掛かり具合や外れやすさに影響します。 - フトコロ
針先と胴との間の幅を【フトコロ】と言います。
フトコロは、腰曲げと先曲げの間の幅を表すこともあります。
口が大きい対象魚向けの針や、軸が太く強度の高い針ほど、フトコロは広くなっています。
上述のように、釣り針の構成は、チモトの形状に始まり、胴の長さ、腰曲げや先曲げの角度、フトコロの広さ、針先の形状にカエシの存在、そして、針そのものの太さや重さ、素材や色なども含めて様々な要素によって成り立っています。
魚種別の専用針に付いては、いずれもターゲットとなる魚の特徴や特性に合わせて加工されています。
よって釣り針の一番簡単な選び方は、魚種別にラインナップされた商品の中から、その時々の釣りに応じた釣り針を選択することです。
ただし、魚種によっては専用針がないものや、お店の規模によってはマイナーなものは取り揃えていない場合もあるでしょう。
そのような時は、次に示す5種類の代表的な基本形状を持つ釣り針の中から、対象魚に見合った釣り針を選びましょう。
5種類の代表的な釣り針の形状と選び方
海釣りベースの紹介になりますが、釣り針はその形状の違いによって、いくつかの種類に分けることが出来ます。
先に紹介した釣り針の形についての基本知識をもとに、代表的な5種類の釣り針の基本形状の特徴と特性を中心に、各々のメリットやデメリットも含めて紹介します。
多くの完成仕掛けに使われる汎用性No.1の釣り針【丸セイゴ】
釣具店で波止釣りで使うような完成仕掛けを色々と見てもらえば分かりますが、様々なターゲットに対して使われているのがこの【丸セイゴ】で、釣り針の中では最も汎用性の高い釣り針だと言えます。
形状の特徴
- 標準的な縦長形状
- フトコロの広さは標準的
- 針先は少し内向き
- 針の太さは標準的
- 針の強度は標準的
使用上の特性
- エサを吸い込みやすく、丸のみする魚にも効果的
- 魚の食い込み時に針に掛かりやすく、バラしが少ない
- 上物から底物まで幅広く使用できる
- 小物から大物までターゲットのサイズを問わない
- ターゲットを絞らない釣りでの第一選択肢に最適
丸セイゴ針は、良くも悪くもすべての針の標準的な形状と、太さや重さを持つ釣り針と言えます。
それだけにターゲットが限定されず様々な魚種や、それらの釣り方に対して使える釣り針と考えておけばOKです。
その名前からセイゴやハネなどの釣り針であることが分かりますが、その他にも波止の人気者であるチヌ、アジやサバなどを中心とした青物、カサゴやアイナメなどのロックフィッシュ(根魚)、カレイやヒラメなどの底物にも使用できます。
波止釣りで釣れる魚のほとんどの魚はエサを吸い込んで食べますが、丸のみするような魚に対しても効果的で、標準的な仕様をもつ丸セイゴは市販の完成仕掛けに採用されているケースが多い針です。
更に丸セイゴは、ロックフィッシュ用としてイケ先に先曲げやネムリを入れていたり、底物の投げ釣り用として軸がケン付きになっていたり、ルアーフィッシングや大物釣りを意識してチモトが管付きになったものなど、非常にバライエティに富んだラインナップを持ちます。
釣り針の選び方の一つとして、堤防釣りの入門者さんや初心者さんが、魚種別の釣り針が見つからず何を使って良いのか迷った時は、丸セイゴを使ってみるというのも良いでしょう。
チヌ針やグレ針に使う釣り針の基本形【伊勢尼】
丸セイゴと同じように、様々なターゲットに使われる汎用的な釣り針で、釣り針の基本形状ともいえる【伊勢尼】があります。
形状の特徴
- 軸が短く丸型形状
- フトコロは最も広い
- 針先は軸とほぼ並行
- 針の太さは太い
- 針の強度は強い
使用上の特性
- エサを啄む魚でアワセが必要な魚に効果的
- 強度が強く、掛かるとバラし難い
- 上物には使いやすいが、根掛かりしやすく底物向きではない
- 小物から大物まで使えるが、口の小さな魚には不向き
- チヌ針やグレ針としての製品の種類が非常に豊富
伊勢尼は全体的に丸みを帯びた強度の強い釣り針で、チヌやグレなど人気の上物に適した針の形状を持ちます。
チヌ針やグレ針の元としても採用されていますが、特にチヌ針は魚種を問わず幅広いターゲットに使える汎用的な釣り針です。
小物から大物まで使用可能ですが、軸の太さが太く強度も高いことから、どちらかと言えば大きな魚や口が硬い魚に効果的です。
デメリットとしては、軸の太さゆえ、生きエサの弱りが早いといった面があります。
これについては、同じ形状で細目で作られたものにチンタメバルやアブミがあり、活きエビなど生命力の弱い活きエサには有効です。
こちらは針も重さも抑えてありますので、吸い込みタイプの魚にも使いやすい仕様になっています。
口が小さな魚や非力な魚向きの釣り針【袖】
海釣りの中では、アジやイワシ、サヨリやハゼなど、非力な魚(小物)に対して良く使われるタイプが【袖針】です。
形状の特徴
- 胴が長く縦長形状
- フトコロは狭い
- 針先は軸とほぼ並行
- 針の太さは最も細い
- 針の強度は最も弱い
使用上の特性
- 口が小さな魚でも吸い込みやすい
- 針に掛かりやすいが、バラしも多い
- 根掛かりに弱く、底物への使用は限定的
- 対象となる魚は非力な小物が多い
- サビキ針などに使われている
袖針は口が小さい魚や、非力な魚でもエサが吸い込みやすいように、細長形状で軸が非常に細く軽い仕様となっています。
その犠牲として針の強度は最弱で、少しのことで針が曲がったり折れてしまうといったデメリットを持ちます。
それ故、対象はイワシやアジ、ハゼやサヨリなどの小物や非力な魚に対して選択対象になる針で、大物釣りにはまず使われることがない釣り針です。
針を吸い込みやすい反面、口から吐き出しやすい特性もあるので、バラさず取り込むには合わせが必要ですが、青物の場合は口切れを起こしやすいといったデメリットもあります。
海釣りでは、サビキ釣りや、小物をメインターゲットとしたウキ釣り(メバルや五目釣り)での使用が主要で、あまり使い途が多い釣り針ではありません。
針先の鋭さを維持する底物針【キツネ】
淡水魚のワカサギ釣りの代表的な針ですが、海釣りでは主にキスを釣るための針として使われるのが【キツネ針】です。
形状の特徴
- 胴が非常に長い縦長形状
- フトコロは少し狭い
- 針先は内向き
- 針の太さは標準的
- 針の強度は標準的
使用上の特性
- おちょぼ口の魚でもエサを吸い込みやすい
- 針に掛かりやすいが、バラしも多い
- 根掛かりが少なく、底物向き
- 小型から中型のキスの数釣りに最適
- 投げ釣りや引き釣りでの使用がメイン
キツネ針は袖針の軸の長さと、丸セイゴの腰曲げを融合したような形状で、キスの投げ釣りや引き釣りに良く使われる釣り針です。
縦長形状でエサを吸い込みやすいメリットがある反面、針を飲み込まれやすく、魚によってはすっぽ抜けてバラシやすいといったデメリットもあります。
キツネ針は針先が内向きで、根掛かり対策にもなっているため、針先の鋭さを維持しやすく、近投でのキスの引き釣りで数釣りをする際によく使用されます。
同じように底物のカレイを含めた投げ釣りでは、【流線】というタイプの釣り針が使われます。
流線もまた細長い縦長形状で針先が短く、おちょぼ口のカレイやキスがエサを吸い込みやすい形状になっています。
コチラはキツネに較べると針先は軸と平行方向になっており、多少根掛かりはしやすくなりますが、そのぶん針掛かりの良さは向上しています。
完成仕掛けとして販売されている投げ釣り仕掛けでは、流線が採用されているケースが多くなっています。
ロックフィッシュに特化した【ムツ】
独特の歪な形状を持つ【ムツ針】は、船釣りで使われることが多い針ですが、エサを深く飲み込むカサゴやソイなどのロックフィッシュ(根魚)狙いでは波止釣りでも使用可能です。
形状の特徴
- 腰曲げも先曲げも大きく丸型形状
- フトコロは狭い
- 針先は極端に内向き
- 針の太さは最も太い
- 針の強度は最も強い
使用上の特性
- エサを丸呑みする口の大きな魚に対して効果的
- 針に掛かり辛く、合わせが必要
- 根掛かりが少なく、岩礁帯での使用に向く
- 小型の魚に向かず、基本は大物狙いで使用
- 針掛かりは悪いが、一旦掛かるとバラすことはない
ムツ針は軸が短く、腰曲げや先曲げで大きなカーブを描く、横長の丸型形状を有する釣り針で、他の釣り針の形状とは一線を画しています。
針先にはネムリが入っているのが基本でく、魚の食い込み時に針掛かりしないため、合わせが必要となります。
エサを丸呑みするロックフィッシュゆえ、針掛かりしにくいというデメリットが全面に出にくく、むしろ根掛かりしにくいというメリットによって、岩場をのポイントを攻める際に有効な針となっています。
一般的な波止釣りでムツ針を使うケースはほとんどありませんが、ネムリが入った針は、カサゴやソイなどの穴釣りや際釣りなどで根掛かりが多発するようなポイントを狙う際に非常に効果的です。
最近では根魚用だけでなく、チヌ針やハゲ針にもこのネムリ形状が使われることがあります。
以上で釣り針の基本形状ともいえる5種類の釣り針の紹介を終わります。
あくまで基本形状に焦点をあてた紹介なので、基本形状から派生した釣り針が多種多様に販売されているものと認識して下さい。
例えばチヌ針と一言でいっても、実際に各メーカーから販売されているチヌ針は、サイズ違いを除外しても数十種類に及びます。
それらは先に紹介した、基本形状で紹介した各部位の要素を少しずつ変化させたものと考えてもらえば結構かと思います。
なお、ここでは、紹介していませんが、釣り針の材質や色という要素の違いというものもあります。
更に、釣り針を選ぶ際にもう一点重要になる選択基準として、釣り針の大きさを示す号数を決定する必要があります。
この釣り針の号数というファクターについては、次回の記事で紹介しようと思います。
狙う魚や釣り方に合わせて、具体的に釣り針の種類と釣り針の号数をまとめた内容にしようと思いますので、まだまだ釣り針選びに自信のもてない初心者の方は、是非とも引き続きご覧下さい。
【追記】
釣り針のサイズに関する基本知識と、対象魚や釣り方に合わせた釣り針の種類とサイズの選び方について一覧表で纏めてみました。
ルアーマンにとって必要な知識として、ルアーに応じたフックの種類と選び方について纏めてあります。